議員提出議案第3号「地方の実情に即した平成22年度政府
予算の年内編成を求める意見書提出について」の提案説明

 ただ今上程されました、議員提出議案第3号「地方の実情に即した平成22年度政府予算の年内編成を求める意見書提出について」、提出者を代表して趣旨説明をいたします。
 本年9月16日に民主党を中心とした連立政権が発足し、3カ月が経過いたしました。その間の政権運営の状況は、政権交代のみを目的とした到底実現が見込めないと思われるようなマニフェストに拘束されるがゆえ、それが重荷となり、前にも進めず後ろにも引けないといった膠着状態にあります。
 今、このような視点で現政権を見るとき、「コンクリートから人へ」、「国民の生活が第一」といった耳障りのよい、キャッチコピーだけが虚しく響いてまいります。
 民主党マニフェストには、子ども手当や農家の戸別所得補償制度の創設、生活保護の母子加算の復活、暫定税率の廃止、高速道路の無料化などを打ち上げておりますが、目的も理念も明確でなく、単なるばらまきとも揶揄されている政策のいずれにおいても、赤信号がともっているのは、当然のことであります。
 またさきの総選挙前、民主党は、これら施策を実現するための財源は、無駄を根絶し、事業を見直しすれば15兆円程度の財源は簡単に捻出できる、したがって赤字国債の発行はしないと豪語しました。
 そして、政権獲得後、法的根拠も明確でない、閣僚の権限をも飛び越えるような事業仕分けなる手法を唐突に導入して、財源の捻出に当たったのでありますが、ご承知のとおり、その思惑はもろくも崩れ去っております。
 1週間程度の走り走りの審査で447もの事業の仕分けがなされましたが、目標としていた3兆円に遠く及ばない、1兆8,000億円をはじき出すのが精一杯であったという現実であります。
 また、余りにも荒っぽい、まことに失礼極まりないやり方であると、文化人や著名人から批判を受けると、一夜にして、方針転換するなど、政権内の不協和音さえ聞こえてくる始末であります。
 私は、廃止や見直しとされた事業の関係各位に及ぼす計り知れない影響の大きさを思い、これが国家予算の正しい審査の有りようなのか、政権与党の自覚や責任はどうなったのか、政治家の一人として、怒りを通り越して残念でなりませんし、日本の未来を憂うものであります。
 この責任は、もちろん総理初め内閣にあるのでありますが、官邸主導、政治の一元化を目指すとして、鳴り物入りで国家戦略局及び行政刷新会議が設置されたにもかかわらず、パフォーマンスに明け暮れる行政刷新会議と、本来、トータルで政策を検討し、日本の進むべき方向を差し示すことに当たる国家戦略局が機能不全となっており、その両者の責任は非常に重いものであると断じざるを得ません。
 政治は、国民との信義誠実の上に成り立っているものであります。現下の厳しい社会情勢のもと、政権を担当する政党は、国益を第一義に、一刻の猶予も置くことなく、国のあるべき方向性を国民に明確に示さなければならない責務があると思うのであります。
 現在、我が国は百年に一度と言われている経済不況の中にあり、企業の倒産・業績悪化により、雇用情勢では、10月の失業率が5.1%となっており、依然として高い失業率で推移し、過去最悪であった2003年4月の385万人に迫っております。
 来春卒業予定の学生の就職内定率も、2000年前後の就職氷河期並の厳しさとなっているようであり、今後、景気の二番底やデフレスパイラルが懸念されております。
 国民は、政治に、閉塞感が蔓延したこういう現状を打開するための取り組みを期待しているのであって、今こそ政治が真の主導力を発揮し、緻密な現状分析に立脚した必要な政策をタイムリーに執行し、あわせて羅針盤となり、我が国の進むべき方向を明確に示し、未来に対する希望の光を国民に発信すべきであります。
 しかし残念ながら、現状の政府の姿は、さきに述べたとおりであって、閣僚の間から、それぞれ独自の立場で、無責任な発言を行うなど、政権運営能力に疑問を持たざるを得ないような状況であります。
 さりとて、徳島市民が政府の予算編成の遅れや、政策による不利益を被り、徳島市の発展や、地域経済の安定性が損なわれるようなことでは、市民からの負託を受けている、我々徳島市議会としても黙認することができず、この意見書を提出するに至りましたことを、まず強く申し上げておきます。
 以下、各政策について、その方向性・目的・手法等において、徳島市や市民が影響を受けると思われるものについて、若干申し上げます。

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(母子加算)
 まず、生活保護に係る母子加算の復活についてでありますが、憲法の理念や法律の趣旨である、国民の最低限度の生活を保障し、その自立を助長するといった施策となっておりません。
 今回の加算の復活で、生活保護の受給を受けていない母子家庭の可処分所得より保護費が上回るといった逆転現象を招いております。生活保護を受給せず頑張って仕事をし、子供を育てている母子家庭にとっては、不公平感と相まって勤労意欲の低下を招くことは必至であります。

 また一方で、自立を助長するための就労支援費を廃止しておりますが、これでは、国が法の趣旨をたがえ、生活保護へと誘導していることにほかなりません。
 母子加算が復活することを歓迎する声を非難しているのではありません。現状の検証もせず、代替の手当も講じず、安易に実施に移した政府の責任は非常に重いと言わざるを得ないのであります。
 今期定例会において、生活保護母子加算に係る補正予算が上程され可決されましたが、このようなことから、私どもは諸手を挙げて、この制度設計を了としたものではないことを申し上げておきます。
 それと何より、国が生活保護の基準を母子加算を加えた額と設定したと見なければなりません。ならば、逆転現象が起きている生活保護の受給を受けていない母子家庭に対する代替措置のあり方や、生活保護基準の見直しなど、社会保障制度全体をどのようにしていくかといったビジョンを示し、そういった議論を踏まえてこそ、初めて個別の政策が実施に移されるべきものと考えるものであります。
 また、生活保護事務は法定受託事務として法に規定されているため、地方自治体に裁量権はありませんが、地方の財源負担は4分の1とされております。今年度の増加分の財源は交付税措置されるようでありますが、次年度以降のことは明らかにされておらず、現在の負担割合で徳島市に当てはめてみますと、約1,700万円もの一般財源が新たに毎年必要となります。
 地方の財政状況をどのように認識しているのか、甚だ疑問に思うものでありますが、国が一方的に復活することを決定し、実施したものである以上、財源は当然すべて国の責任において賄い、地方には一切負担を求めない中で、行うべきであると申し上げておきます。

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(子ども手当)
 次に、子ども手当でありますが、この財源をめぐり、地方自治体や企業に負担を求めてはどうかとの議論が政府内で行われていると報道されております。
 もとより、子育て、少子化対策は国を挙げて行うべき重要政策でありますが、地方の実情や意見も聴かず、十分な議論の積み上げもなされていない子ども手当については、再考すべきであります。
 もし、どうしても実施するのであれば、国が担当し、全額負担とすべきであり、地方自治体や企業に負担を求めることは、絶対容認できるものではありません。
 仮に、実施されるとした場合、本市では支給対象人員が3万8,000人となり、支給額は年間約120億円にもなります。現行の児童手当の負担率に換算すれば、本市の負担額は30億円ほどとなり、市財政は破綻を余儀なくされると思いますし、現下の経済情勢下において、企業にも計り知れない影響を与えることは必至であります。
 また、財源の問題や、受給者と、受給者以外の方との不公平感など、数多くの課題を抱えることになる子ども手当は、愚策としか言いようがありません。
 真に、安心して出産し子供が育てられる社会を構築するためには、保育施設の整備や産科・小児科医療の充実などを求める、地方等の意見に真摯に耳を傾け、総合的な子育て支援の環境整備に力を注ぐべきであります。

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(後期高齢者医療制度)
 次に、後期高齢者医療制度については、廃止の方向が打ち出されております。平成20年度の導入当初には、周知不足や年金からの保険料天引きなどにより批判や混乱を生じましたが、低所得者の負担軽減など、たび重なる改善策を講じ、当制度は2年目にして軌道に乗り、定着してきております。
 このような中、同制度の性急な廃止は、制度構築に要した多額の経費と努力を無にするだけでなく、再び全国の自治体に多大な混乱を招くことになります。
 政府として、まず行うべきは、医療保険制度全体のビジョンを示し、広く国民や地方自治体及び関係機関との協議を始めることであります。

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(農業者戸別所得補償制度)
 次に、農業者戸別所得補償制度でありますが、その制度設計がない中、農家の来年の作付けにも支障が出るなどの混乱を招いております。

 一方、戸別所得補償制度は、農業者の生産意欲や向上心をそぐとの指摘もあり、日本の農業の将来を見据えた政策とは言いがたく、国が進める食糧自給率の向上や、農業の再生といった方向にも逆行するものであり、見直しが必要と言わざるを得ません。

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(高速道路無料化)
 次に、高速道路の無料化でありますが、休日、祝日の高速道路料金の引き下げにより、影響を受けたことが立証されている鉄道やフェリー、バスといった公共交通機関の存続とそこで働く人への対策などが明確になっておりません。
 また、交通量の増加に伴う物流への影響や環境問題、さらには維持補修に係る財源問題等々を検証する十分な期間が必要でありますし、何より、そういったデータに基づく交通政策、交通体系の戦略が必要であり、拙速な判断は取り返しのつかない事態を招くことになると申し上げておきます。

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(暫定税率廃止)
 次に、自動車関連諸税の暫定税率を廃止するとしておりますが、もし廃止されれば、市町村への財政的な影響は、約3,100億円との試算もあり、このことにより関連事業が滞ることはもとより、福祉や教育などの行政サービスに悪影響を与えることが懸念されます。
 暫定税率廃止に伴う代替財源を明らかにしない中、環境税の導入が浮上するなどの混乱を招いておりますが、このような状況のもとでは、地方自治体の来年度予算編成に支障を来すことは明白で、ひいては市民生活に影響を及ぼすことが心配されております。
 他の政策との関連性や、地方自治体に与える影響等を十分考慮の上、慎重に対応すべきであります。

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(行政刷新会議)
 次に、行政刷新会議の事業仕分けでありますが、その作業状況が一般に公開されるとともに、インターネットでも中継され、仕分け人の容赦のない発言に注目を集め、多くの国民の関心を集めたことは事実であり、パフォーマンスとしては成功したかもしれませんが、この結果が最終的な政策決定に何ら影響しないことは、パフォーマンスのみにすぎないと言われても仕方がないものであります。
 このような理解しがたい仕分け作業によって、地方にとって必要なまちづくり関連事業や下水道事業、道路整備事業などが、地方の実情を無視した中で、廃止や見直しの判定をされております。
 ひとつに、まちづくり関連事業や下水道事業は、財源や地方への移管の手法が示されておりません。また、道路整備事業や河川改修事業はコスト縮減に向けての見直しを求められており、社会基盤の整備・推進に大きな影響を与えることが懸念されます。同会議の結論のとおり、平成22年度政府予算が編成されるとすれば、社会基盤の整備が遅れている本市にとっては、到底容認できるような状況ではありません。

 以上、現政権はマニフェストの呪縛の中、中長期的展望を持たず、部分的な対応に終始していると言わざるを得ない状況であります。政府が果たすべき役割は、現状の社会経済情勢をしっかりと認識し、何を最優先すべきかを検討し、トータルでの政策立案を早期に行うことであります。
 古代ローマ帝国が滅んだ理由として、「パンとサーカス」ということが言われております。これは、国民への生活の糧のばらまきと見せ物によって統治することの限界をやゆしたことと思いますが、現政権はまさにこの轍を踏んでいるように思えてなりません。
 しかし、現在、景気の低迷や税収の落ち込みといった、マニフェストを実現するための前提条件が崩れる中、国民は、この国の将来に不安を抱いているのであります。
 地方においても、政府の政策実現の方針が揺らぐ中、先が見通せない状況にありますが、このようなときこそ、地域主権の方針にのっとり、真摯に地方の実情に耳を傾け、地方の公益を損することのない政策立案を行うとともに、地方自治体が速やかに来年度予算の編成作業に着手できるよう、平成22年度の政府予算の年内編成を強く要請するものであります。
 以上、議員各位の御賛同をよろしくお願いいたしまして、趣旨説明といたします。

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