海外視察調査報告書 フランス・ストラスブール市
 地方分権・財源移譲により建設された
             『トラム』『パーク&ライド』について


 1898年の市長選挙では、候補者の主張が「地下鉄」と「トラム」に分かれた政策選挙であったが、市民の多くが女性市長、キャサリン・トラウトマンが公約した、LRT次世代路面電車(トラム)の導入に支持を表明し、選択した。これにより路面電車の導入は政治的に決定された。

 1992年、新しい都市内交通政策がスタートした。政策の柱は、都市圏から車を閉め出し、町を活性化させるためにつくられた第三セクターによる交通政策で、具体的には、トラムの導入によって、市内への自動車流入量を制限するというものである。
 それまで自動車に許されていた市街地の空間を制限し、新しく公共交通機関と歩行者、自転車の分担を高めるという方針で、車優先社会で構築されていた路線を思い切って転換し、都市空間を人間の生活空間として再生したことで、その他の副産物がついてきた。

 その副産物というのは、ヨーロッパ議会がある場所として知られているストラスブール市に、快適な環境、復元された歴史・文化の薫り、暮らしやすさを求めて、多くの教育機関や国際機関が移転してきたことである。
 ミッテラン政権の地方分権改革の一環として、フランスの超エリート養成機関である国立高等行政学院も移ってきた。バイオなど固有の研究機関も整備され、経済界の懸念をよそに、都市経済もますます活性化しているのである。

 自動車を排除した「人間が主役の町」の地価は上昇し、高級ブランドや新規のショップなどが目白押しに並び、相乗効果で人が集まり商店街は活況である。また、人間にとって暮らしやすい町であるがゆえに、知識産業などで優秀な人材が集結し、新しい産業とともに雇用も増加しているとのことであり、町にとってはほぼ成功した交通政策であると確信した。

 トラムの整備は他の交通手段(バス・鉄道・自動車)との整合性を図りつつ、1994年にA線(12.6q)が開通し、その後すぐD線が開通した。トワール広場の近くのロポンドでA線とD線が重複し共通して使用できる路線となっている。
 この地点では3分間隔で運行され、郊外は6分間隔で運行されている。2000年9月には、B線・C線12qが大学都市と北の方の郊外都市を結ぶ南北線として開通した。A・D線の駅数は23駅、B・C線は24駅となり、現在営業している区間の合計距離は25qである。駅は400mから500m間隔に設置され、市民が利用しやすいようになっている。

 また将来は2006年から2008年にかけて13qほど延長される予定である。
 これは、現在、東西南北の沿線しかなく、周辺部を環状的に回る路線が無いため、E線をつくり、町の中心部に車なしで移動できるようにするためである。これによって全ての沿線が繋がることとなる。

 トラムの構造は幅3.34m、長さ38.56m、最高出力432PS、最高速度60K/H、乗客定員285人・66座席の超低床式で、ドアの幅は1.5mと広いため、一斉に乗り降りができることから、乗降に時間がかからないようになっている。
 車体はアルミ製で軽くしてあり、外回りはポリエステルを使用しているため、修理が簡単にできるつくりとなっている。

 財政面においては、1990年の第一期工事は都市計画部分を含め、2億9600万ユーロを投資した。その内訳はストラスブール都市圏(27の町村)2700万ユーロ、国からの援助5000万ユーロ、交通税から7900万ユーロ、県と地方が2400万ユーロ、都市開発のため水道やガス会社が1000万ユーロ、CTS(地元の二つの交通会社や銀行も加入している)が1億600万ユーロであり、CTSのトップはストラスブール市の長(以前は市長)であった。

 トラムに関しての運営経費は経常利益120%の黒字となっている。この中にはバス会社も含まれているので、全体の60%だけをカバーしており、残りの40%に関しては、国や都市圏が補助金と交通税を支出し運営している。ストラスブール市は、9名以上雇用している企業について、このトラム建設のために企業の支払い賃金の1.75%まで課税できる公共交通機関税を導入した。
 その導入理由は、社員の多くが安く快適に通勤できることである。また、企業はこの交通税をプールして事業に充当しているのとのことである。

 都市圏においてのトラムの利用状況は、人口10万人に対して、約65%の人が利用しているとのことである。それに比べて、A線とB線の沿線に住んでいる人口は10万5000人であるが、A線に関しては1日延べ10万人が利用しているとのことである。
 パーク&ライドの駐車場はトラムの終点もしくは駅の近くにあり、約1800台が駐車できるように設置され、非常に成功しているようだ。
 その理由の一つは駐車場料金が格安であるとともに、乗車人数分のトラムの無料切符が配布され、一台に何人乗っていようが、同じ駐車料金で同乗者全員にトラムの無料切符が手渡されるシステムにある。

 さらに、郊外へ行けば行くほど駐車料金は安く、市街地に近づくほど高い料金体系になっており、車両規制と路面電車等による都市交通の整備は徹底していた。

 徳島にも国道11号線にパーク&ライドを設けているが、駐車スペースも少なく、乗り換えが不便で、バス料金も安くならないため、システムはうまく機能していない状況である。
 ただ、高速バスにおいては松茂のとくとくターミナルにあるパーク&ライド、また鳴門競艇場近くに設けているパーキング&ライドは成功しており、もっと駐車場を増設して欲しいとの強い要望があるようだ。
 徳島市でも阿波踊り期間中だけに設けられているパーク&ライドは非常に評判が良く、たくさんの利用者があったが、今年から有料化にしたため、利用者の評判はよくなかったようだ。この事業が成功するか否かは、行政の取り組む姿勢が本気かどうかにかかっていると強く感じた。

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